秋の読書2021;アリーサ編

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優しく微笑むアリーサ・フランクリン(師ピーター・バラカンがいつも「アリーサ」と呼んでいるので)

マイケルの自伝が思いのほか面白かったので、以前から読みたかったアレサ・フランクリンの評伝『リスペクト』にトライした。著者デイヴィッド・リッツは、アリーサの自伝を本書よりも前に共著したり、レイ・チャールズマーヴィン・ゲイなど大物ミュージシャンの自伝を書いている。共著では本人の同意が得られず書き表せなかった部分を含め、もう一度アリーサのことを書いてみたいと思ったそうだ。2014年に出版され、日本では2016年に翻訳出版されている。上下2段組みで500ページを超える大作のため、一気にとはいかなかったが、1週間ほどかけて読み通した。
内容は、著者がインタビューした本人や親族、関係者の言葉を繋ぎ合わせたような構成である。一人一人のコメントを順番に伝えるのではなく、欧米のドキュメンタリー番組のように、一つのテーマについて多くの人の言葉を次々に繋ぎ合わせ、時間軸で過去を追体験する感じだ。おかげでテンポ良く読み進められるのだが、一方でなんだか落ち着かない文章だ。

アリーサは、同時代の中では経済的にも家庭的環境も恵まれていた方だろうが、それでも人種差別や偏見の只中で育っている。彼女の父C.L. フランクリンは、暗殺されたキング牧師らと共に、その活動の中心にいた人物だった。幼い頃に母を失い、人前で歌うことが彼女の唯一の心の安らぐ時であったようだ。そして彼女には類まれな音楽の天才が備わっていた。今回彼女が多くの曲を自身で作曲をしていたことを知った。楽譜を読めないにも関わらず、である。人生は過酷である。ソウルの女王も例外ではなかった。だからこそ、彼女の歌が今も心を打つのだろう。

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表カバーの写真を撮っていて気づいたことがあった。同じ写真を複写しているはずなのに、窓からの光が当たる位置によって表情がかなり異なる。上の写真では、下唇から顎にかけてに光が当たり、口は半開きで微笑んでいるように見える。下の写真はどうだろう。光が下唇から上唇の中央あたりに当たっている。すると、途端に半開きのように見えていた口が、わずかに開くか開かないか程度に見え、笑みも薄らいでくる。さらに、上の写真では明るく輝き少しはにかんだような左目が、下の写真では前をじっと見つめて、はにかみというよりも憂いを含んでいるよう。

評伝の中身を考えると下の写真がふさわしいイメージかもしれない。けれども、自分の中では初めて買ったアリーサのアルバム『Through The Storm』の迫力ある明るめの印象と重なる上の写真がふさわしく感じる。

それにしても、今年5月に公開された映画『アメイジング・グレイス』は、なぜ近畿圏では上映されないの?

<2021年11月6日追記>
映画『アメイジング・グレイス』の近畿圏での公開はまだのようだが、伝記映画『リスペクト』が今週から公開されたようだ。今朝のピーター・バラカン”ウィークエンド・サンシャイン”の冒頭でその話題が出ていた。アリーサ役で主演するジェニファー・ハドソンの歌(AIN'T NO WAY)がかなりイケる。