聴いて見て楽しめる定期演奏会

先月が9日だったこともあり久しぶりという感じのPAC第137回定期演奏会。指揮者はカーチュン・ウォン、プログラム1曲目は伊福部 昭のバレエ舞踏曲「サロメ」の一部、2曲目はラフマニノフ「ピアノ協奏曲3番」、そして最後はバルトーク管弦楽のための協奏曲」。いずれもほとんど聴いたことがないか全く初めて聴く曲。

1曲目は全く予備知識なく臨んだのだが、こんなにも日本的な交響曲があるとは。フルートの音色がまるで尺八のように響く。とても複雑に思えるこの曲を独学で作曲を学んだ人・伊福部昭が作曲したというのもすごいことだ。舞踏曲そのもののリズムをカーチュン・ウォンが太極拳のようになめらかな動作で指揮する。こんなにも楽しい指揮方法があるのだ。

2曲目は、神戸出身のピアニスト三浦謙司さんがソロを演奏。直前にCDで数回聴いたが、とても難しい曲だ。まるで頭に入ってこない。ところどころに親しみやすいメロディーもあるが、全体に曲調の緩急・強弱が目まぐるしく変化してついていけない感じだった。しかし、生演奏あるあるで、実際に目の前の演奏を聴くと意外にスッと入ってくる部分が多いことに気づく。そして三浦さんのピアノの音色が非常に魅力的だった。決して激しくは弾かない。それは譜面がそうなっているからかもしれないが、彼の鍵盤の押さえ方が正確無比でタッチが非常に柔らかく、しかも完全には押さえきらずにその直前で止めているように思われる。アンコールで弾いたドビュッシー作「月の光」の最後の一音が終わった時は、あまりの音色の美しさに数秒間会場が真空になったように静まり返っていた。

休憩を挟んだ3曲目は、こちらも2曲目同様に難解な曲だと思っていたが、なかなか良かった。指揮者の好みであろうか、右手前面にヴィオラを配置、その奥にチェロ、なんとコントラバスは最後列にずらり8人が並んだ。そのせいもあって今日はヴィオラの音色の特色がよくわかった。ヴァイオリンより少しだけふっくらした軽やかな響きだ。

アンコールでは外山雄三作「八木節」が演奏された。これまた超日本的、というよりも八木節そのものをオーケストラで演奏したと言えよう。思わず手拍子を打ちたくなる名調子とカーチュン・ウォンのユーモラスな指揮に聴いている方だけでなく、演奏者も皆笑顔に。そしてあっという間の2時間半が過ぎていった。

ホールからロビーへ出る途中、2曲目でソロを弾いた三浦さんが通路で皆から祝福されていた。逆立った髪型とチョビひげ、そしてストライプの入った紺のスーツに赤い靴下という少し際どい感じの風貌とは裏腹に、とても人なつこい笑顔で応えていたのが印象的だった。

<2日後の22日夜これを書いている時、NHK・FMから聞こえて来るピアノの音に聞き覚えがある気がした。しばらく聴いて、まさしく三浦謙司の演奏であることがわかった。なんか嬉しい瞬間だった。休憩時間に発売されたばかりのデビューCDを買っておいて良かった。>