蝉しぐれブル8負けじ吠えかえす

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暑い暑いと繰り返すと尚更暑さが募るのではあるが、叫びたくなるような蒸し暑さが続いている。今日は「海の日」で国民の祝日だそうだ。海に行きたい!

そのような日にあえて聴く、ブルックナー交響曲8番、彼の最高傑作、通称?ブル8。
弦楽器の繊細なさざ波のような音色で始まる第1楽章、まだ窓から聞こえるセミの大合唱が圧倒的に勝(まさ)っている。
続く第2楽章、5分過ぎあたりから管楽器が勢いづいてくる。6分半、一度静寂が訪れる。が、蝉はお構いなし。その後も同様の展開が繰り返される。寄せては返す夕闇の波打ち際のよう。この時点でセミの声は、特殊管楽器による通奏と化している。
何度目かの静寂の後、始まる第3楽章。満月の明かりに誘われて漕ぎ出したボートから海の底をのぞいているような不思議なかんかくに襲われる。死への誘(いざな)いとでもいうのだろうか。そんな時、ふと見上げる空に月明かりに劣らぬ輝きの星々に気づき、我に返る。沖の方から大波が迫ってくる。そして大きな静寂。
第4楽章は冒頭から大波が押し寄せてくる。次第に勢いづく打・管楽器に、セミたちは絶え間なく。5分50秒、急いで戻ろうとするボートに大波が近づく。波に巻き込まれ意識を失う。気づくとそこは深海の中。現世か死の世界か、彷徨う。14分過ぎ、まさに大波に揉まれるボートの中で目覚める。ようやく逃れ、岸に戻る。するとそこは雲の上。眼下に見渡す限りアルプスの山々が聳えている。そこで突如鳴り続けた咆哮は終わりを告げる。
(CD;カラヤン指揮、ウィーンフィル、1988年録音)

早朝愛犬と散歩中、公園のケヤキ並木の下で猛烈なクマゼミアブラゼミの大合唱を聞き、思わずどっちが勝つだろうと思い立ち、妄想に耽った次第。結果的にブル8は蝉しぐれをものともせず、曲の世界へ惹きつけるのでした。